急性肝不全と凝固因子
「この患者さん肝臓が悪いね」とは?基本的事項のおさらいです。
急性肝不全は「正常肝に起こる急性の肝機能障害」である
日本で臨床的に問題となる急性肝障害はウイルス性が多いことに対して、欧米では薬物性が多かったという事実があります。そのため、日本は「劇症肝炎」という肝炎の視点から定義が始まっていますが、欧米は薬剤によって起こる「肝不全」が主に取り上げられています。その乖離を埋めるため劇症肝炎、急性肝不全の定義が見直され、2015年に2011年の改訂版として以下のように定められたという経緯があるようです。
正常肝ないし肝予備能が正常と考えられる肝に肝障害が生じ、初発症状出現から 8 週以内に、高度の肝機能障害に
基づいてプロトロンビン時間が40%以下ないしPT-INR 1.5以上を示すものを「急性肝不全」と診断する。
注釈が6つもありますが、特徴的には2つで、
・ウイルス性のいわゆる肝炎以外のもの、つまり薬物性や循環障害によるものも急性肝不全に含む
・アルコール性肝炎は慢性経過のものであり「正常肝」ではないため急性肝不全に含まない
ことです。
急性肝不全と凝固因子
急性肝不全を早期に診断する指標として広く用いられるのは凝固障害です。肝臓から凝固因子が作られますが、肝臓が悪くなるということは肝臓の行うべき仕事(蛋白合成能)が滞ることですから、当然凝固因子の補充も遅れます。
特に凝固因子の中でも「第7因子」は半減期が最も短く、すぐに障害されます。
その第7因子欠乏による凝固障害を拾い上げる検査が、「プロトロンビン時間(PT)」になります。現にPT%と肝性脳症の頻度は関連が強く言われており、そのため急性肝不全の診断基準にもPTが昔から用いられているようです。
急性肝障害、急性肝不全でもPT%(PT-INR)を指標とした診療が主体となると思います。対して、肝逸脱酵素などは肝傷害を推測することにはつながるかもしれませんが、肝機能障害と直接結びつくわけではありません。
肝逸脱酵素がそこまで異常高値とは言えなくとも、肝機能、特に凝固障害をみてみると、肝臓がどの程度機能不全に至っているか推測することができます。基本的なところですが、しっかり区別して押さえておきましょう。